SDGsの17目標でみる2024年の世界
「SDGs白書2023-2024」より
このストーリーマップでは、2024年6月にインプレス社から発行された『SDGs白書』をもとに、地図情報も活用しながら、SDGsの17目標から見た2024年現在の世界の状況を紹介します。SDGsの達成期限に向けて、日本、そして世界はいまどのような状況にあるのか。国連が発表したSDGsに関する報告書『Global Sustainable Development Report(GSDR 2023)』のデータをはじめ、さまざまな統計資料から現在地を確認します。17目標それぞれの進捗がどのような状況か、このストーリーマップで確認してみましょう。
1. 貧困をなくそう
脆弱な立場に置かれた人々の 社会的保護は不十分
コロナ禍により極度の貧困層の割合が上昇
新型コロナウイルス感染症によって社会経済活動が停滞したことで、低下傾向にあった世界の極度の貧困層の割合が一時上昇した。現在は再び低下しているが、このままでは2030年時点で「貧困の撲滅」の達成はおろか、コロナ禍前の予測値よりも多くの人が貧困から抜け出せないままであるとみられている。
約半数のひとり親世帯が貧困
日本の貧困線は127万円で、収入がこれを下回る人の割合、すなわち相対的貧困率は15%である。しかし、ひとり親世帯に限ると貧困率は3倍の45%にまで上昇する。ひとり親世帯では生活の困 窮に加え、子どもの教育格差が懸念されている。
貧困の撲滅はSDGsの一丁目一番地と呼ばれる。しかしこのままでは2030 年でも、依然として5.8 億人が極度の貧困の中にいると予想されている。2020 年、極度の貧困層は世界全体で増加したが、社会的保護としての現金給付施策は世界人口の47%、子どもに限れば26%しかカバーしていなかった。他方、日本では国内のホームレスの数は減少し続けている。しかし2021 年の調査によると、路上生活期間が3 年未満のホームレスの6.3%が新型コロナウイルス感染症拡大の影響を理由に路上生活を始めている。
2. 飢餓をゼロに
飢餓は将来の社会の担い手である 子どもの発達を妨げる
世界人口の約1割が飢餓状態
パンデミックは世界の食糧危機に拍車をかけた。世界がコロナ禍に適応しはじめた2021年時点でも飢餓率は上昇しており、地域別に見ると、サブサハラ・アフリカや南アジアで特に飢餓が深刻だ。
出所:世界銀行
食料価格の上昇は低年収世帯の家計に打撃
日本においても食料価格は上昇した。実収入に占める食料への支出額の割合を収入階級別に見ると、低年収ほど高くなることが分かる。さらに、この20年間でその食費割合はわずかではあるが拡大している。
パンデミックや世界的なインフレ、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で世界の穀倉地帯からの輸出が停滞したことなどを受けて、世界の食料価格が上昇した。このままでは飢餓をゼロにするどころか、2030 年には世界で6 億人が飢餓に直面すると予想されている。十分な栄養を得られないことで、5歳未満の子どものうち1.5億人が発育阻害を抱えている。また、日本では、無料あるいは低額で食事を提供する「こども食堂」の数が前年度より1768か所増え、2023 年度には9131か所となった。
3. すべての人に健康と福祉を
パンデミック下で コロナ以外の公衆衛生リスクが拡大
パンデミック下では慢性疾患の治療 へのアクセスが制限された
パンデミック期間中は、外出制限等によって136か国の慢性疾患患者による医療サービスへのアクセスに支障が生じた。しかし、コロナ対策の中で慢性疾患患者への対応に追加予算を割り当てた国は20%で、低所得国に限れば11%にすぎない。
子どもの定期的な予防接種率が低下
世界の麻しんワクチンの接種率はコロナ禍を受けて停滞した。1回接種の割合は上昇が止まり、2回接種に関しては低下に転じてしまった。いずれにせよ、流行を防ぐために必要な人口カバー率には届いていない。
新型コロナウイルス感染症のリスクは依然として存在するものの、生活や経済は正常化している。しかし、死者数が増加したことで、世界・日本の平均寿命は低下した。また、慢性疾患の治療やワクチンの接種が遅れたことで、公衆衛生の進展を停滞させる結果となった。ただしその一方で、目標達成に向けての著しい進展も見られる。例えば、5 歳未満児死亡率に関する目標は133か国がすでに達成しており、さらにエイズ関連死は2010 年から52%減少した。
4. 質の高い教育をみんなに
学校に通えない子どもたち 質・量ともに教育の拡充を
1割の児童が初等教育に通っていない
世界で初等教育に通っている子どもは全体の87%だ。さらに、後発開発途上国においては4人に3人の割合まで下がる。中等教育に通っている割合はさらに低くなる。このままの改善ペースでは、2030年には8400万人の子ども・若者が学校に通えないと予測されている。
教育指導要領に基づくESDの実践は1割
日本では、2017~2018年に学習指導要領に「持続可能な社会の創り手の育成」が掲げられ、学校教育におけるESDの推進が期待された。しかし、「指導要領の該当場所を読んで、授業に取り入れたことがある」教職員は1割にすぎない。 教育の拡充はゆっくりとではあるが進んでおり、世界の小中学校の修了率は上昇している。しかし、質の高い教育の実現はいまだ遠く、2020 年時点で教師の14%が国家基準に基づく資格を有していなかった。一方で日本では、ICTスキルの重要性がますます高まる中、義務教育においてほぼすべての児童生徒が学習者用端末を活用できる環境が整備されている。文部科学省の調査によると、端末の活用は「探究的な学びの充実」などにつながっているとされる。
5. ジェンダーの平等を実現しよう
女性が責任ある立場につくことで 女性の声を反映できる環境づくりを
医療従事者の7割が女性にもかかわらず、コロナ対策のタスクフォースに占める女性は24%のみ
世界の医療従事者のうち7割を女性が占めている。これは新型コロナウイルス感染症対策において女性が最前線で関わったことを意味する。しかし、187か国431のコロナ対策のタスクフォースのうち、女性メンバーは24%にすぎなかった。なお、日本においても同様の傾向が見られた。
出産・育児をきっかけに、女性は正規雇用から離れている
日本において女性が結婚・出産期にいったん退職し、育児が落ち着いた時期に再就職する「M字カーブ」は解消傾向にある。一方で、女性の正規雇用率は20代後半がピークであり、仕事と家庭の両立の難しさから、徐々に低くなる「L字カーブ」を描いている。このことから、女性は出産・育児を機に非正規雇用に切り替えていることが分かる。
ジェンダー平等という目標の指標のうち、85%が達成のための軌道から外れている。例えば、世界の20 ~ 24 歳の女性のうち、5 人に1 人が18 歳までに結婚している。今のペースのままでは、児童婚がなくなるまでに300 年かかってしまう。さらに、議会や企業経営層といった意思決定層に参画する女性を増やすことも望まれる。しかし、企業における女性管理職の割合は2015 年からわずか1%の増加にとどまっている。このままのペースでは管理職が男女平等になるまでに140 年かかるだろう。
6. 安全な水とトイレを世界中に
水ストレスを抱える国々 安全に管理された飲料水の確保が不十分
安全に管理された飲料水へアクセスできる人口は7割にまで増加
世界において安全に管理された飲料水にアクセスできる人口は、2000年の61%から2022年の73%まで増加した。これは20億人以上 の人々にアクセスが確保されたことを示す。一方で、後発開発途上国においては37%にとどまっている。
出所:Our World in Data
出所:国土交通省
水道管の老朽化が今後進むことが予想
日本において40年以上使われている水道管の割合は年々増加しており、2020年度末時点で20.6%にのぼる。さらに、全国の主要な水道管の約6割は耐震性が低い。しかし、水道管の全長に対する1年間に更新された長さの割合(更新率)は0.65%にとどまる。
世界では24 億人が水ストレスを抱えた国で暮らしており、水不足により日常生活に支障が生じている。また、22 億人が安全に管理された飲料水を利用できず、基本的な手洗い設備も利用できていない。加えて、35 億人が安全に管理された衛生施設を利用できずにいる。2030 年までに目標を達成するには、飲料水へのアクセスの確保を6 倍にスピードアップするなど、進捗を大幅に加速させる必要がある。なお、日本の水道普及率はほぼ100%だが、水道管の老朽化による断水リスクが懸念されている。
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
カーボンニュートラルの実現に 欠かせない再エネ拡大
再エネ発電量はこの約20年間で急拡大
世界で再生可能エネルギーの導入が急速に進み、特にこの10年の間、太陽光発電と風力発電の伸びが顕著となっている。この背景には、技術開発が進み、発電コストが安くなったことなどがある。
電動車市場が世界で拡大
カーボンニュートラルに資する手段として、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車が注目されている。販売台数は世界で増加しており、特に中国や欧州で盛んだ。一方日本の累計販売台数は主要国と比較すると少ない。
マップ[BEV・PHEVの販売台数 (2022年)]
出所:IEA, EV sales, cars, World, 2010-2023
エネルギーはCO2 の主要排出セクターであり、再生可能エネルギーの拡大はカーボンニュートラルの実現に欠かせない。国連気候変動枠組条約第28 回締約国会議(COP28) では、2030 年までに再エネ発電容量を世界全体で3 倍にすることが決定された。再生可能エネルギーの導入は途上国でも進んでいるものの、後発開発途上国は後れをとってい る。膨大なニーズがある一方で、途上国のクリーンエネルギーを支援する公的な国際公的資金供与の減少が課題だ。
8. 働きがいも経済成長も
コロナ禍から生活は回復するも インフレが重し
一部地域で失業率は回復せず
コロナ禍で世界の失業率は2020年に6.9%までに上昇したが、2022年には5.8%までに落ち着いた。だが、2015年と比較すると一部 の地域では失業率が高いままだ。
マップ[各国の失業率(2015年と2022年)] (出所:世界銀行)
失業率 (2015年)
失業率 (2022年)
日本の男女間賃金格差はG7で最大
日本の男女間賃金格差はG7で最大で、OECD 加盟国においても3番目に大きい。ただし、女性 正社員の増加などを背景に、日本の賃金格差は 過去と比較すると徐々に縮小している。性別に よる不合理な格差の解消を目指し、2022年から は企業に対して、男女の賃金の差異の公表が 義務づけられている。
コロナ禍を乗り越えて国境をまたいだ観光が再開するなど、私たちの生活や経済活動は正 常に戻りつつある。しかし、その回復速度は緩やかであり、地域によって差が生じている。 加えて、高インフレが経済成長の重しとなり、今後の経済成長率は低下する予想だ。日本 では、人手不足や賃上げが話題となった。さらに、企業においては人材を資本として捉え る「人的資本経営」が注目され、2023 年からは人的資本の情報開示が義務化されるなど、 「人」が経済を把握するうえでのキーワードとなっている。
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
生成AIなどの最先端技術との 向き合い方を考える
研究開発費のギャップが大きい
GDPに占める研究開発費の割合は高所得国ほど高くなる傾向にある。国ごとに比較すると、高所得国が高中所得国・中所得国の2倍、低中所得国・低所得国の6倍ほどもあり、大きく差が開いている。1人当たり金額でみるとこの差はさらに広がる。研究開発に対する投資が少ない場合、ソリューションの開発や 能力開発が停滞するおそれがある。
生成AIによる影響を世界が注視
生成AIとは、学習したデータをもとにテキストや画像などの新しいデータを生み出せるAIを指す。日本で初開催されたインターネットに関する国連主催の会議「インターネット・ガバナンス・フォーラ ム2023」で話題の中心となったのは、生成AIと偽情報への対応であった。
デジタル化の必要性が高まる中で、世界の95%がモバイル・ブロードバンドにアクセス可能となるなど、デジタル包摂が進んでいる。一方、世界経済フォーラムによる「グローバルリスク報告書2024 年版」では、今後2 年間における深刻なリスクランキングで初めて「誤報と偽情報」がトップとなった。加えて、4 位に「サイバー犯罪やサイバーセキュリティ対策の低下」もランクインしている。主要国での選挙においてAIなどの最新技術を用いたデマが広がることで、政治の不安定化が危惧されている。
10. 人や国の不平等をなくそう
所得格差が急拡大する中で いかに再分配をデザインできるか
世界の収入格差は200年間で倍に拡大
2020年には、世界の上位10%の富裕層の平均収入は下位50%の38倍であり、ヨーロッパ帝国主義時代(1910年)並みであった。格差は1980年をピークに縮小傾向にあるものの、この縮小トレンドが継続するかどうかはまだ判断できない。
3割の人が人権侵害を経験
今までに自分の人権が侵害されたと思ったことがあるかという問いに対し、「ある」と答えた人の割合が28%であった。「ある」と答えた人のうち、54%が「あらぬ噂、他人からの悪口、かげ口」、30%が「職場での嫌がらせ」、23%が「名誉・信用の毀損、侮辱」をあげた。 コロナ禍により所得格差が拡大し、世界のジニ係数も上昇した。国家間の不平等である南北問題に加え、各国の内部においても格差の拡大・固定化が懸念されている。例えば、OECD 加盟国の5 人に4 人は自国の所得格差が大きすぎると感じており、貧しい家庭の子どもは大人になっても貧しいままだと半数以上が考えている。しかし、再分配の必要性やその程度についての意見は二極化が進んでいるようだ。日本では同一労働同一賃金制によって正規・非正規雇用間の賃金格差を解消する取り組みなどが始まっている。
11. 住み続けられるまちづくりを
2030年までに仙台防災枠組が目指す 災害による死者数の大幅削減ができるか
約11億人がスラムに居住
世界人口の半分以上が都市に住んでおり、その割合は2050年までに3分の2に上昇すると予想されている。スラム居住者の85%は、中央アジア&南アジア、東アジア&東南アジア、サブサハラ・アフリカの3地域に居住している。人口増加に伴い、スラム街に住む人口もさらに増加していく見込みだ。
マップ[スラム街に住む都市人口の割合(2022年)]
出所:Our World in Data
1割の人が災害対策を取っていない
自然災害への対策を取っている人のうち、半数以上の人が足元灯や懐中電灯を準備している。しかし、自然災害の多い日本においても、1割の人が風水害・大地震に対して対策を取っていない。また、自然災害への対処などを家族や身近な人と話し合った経験を有する人は6割にすぎない。
1970 年から2019 年にかけての世界の災害は、気象、気候、および水に関連する災害が半数を占めており、死亡者は206 万人、経済損失は3.6 兆ドルと試算されている。2023 年に関東大震災から100 年目を迎えた日本は、2024 年の初めにも令和6 年能登半島地震を経験した。「仙台防災枠組 2015-2030」では、2030 年までに災害時の死者数や被災 者数、経済的損失を減らすことが求められている。レジリエントなまちづくりや災害リスク管理体制の強化などがますます重要となるだろう。
12. つくる責任 つかう責任
企業にも消費者にも サステナビリティが浸透
70%の企業が持続可能性に関する報告 書を発行
持続可能な社会の実現に向けて、多くの企業がさまざまな取り組みを進めている。それらの取り組みを開示するサステナビリティレポートの発行は2016年から3倍に拡大し、2021年には監視対象企業の約70%が発行した。中小企業においても取り組みの開示は増加傾向にある。
「エシカル消費」の認知度は27%まで上昇
人や社会、環境に配慮した消費行動である「エシカル消費」の認知度は上昇傾向にあり、認知度が最も高いのは20代で37%であった。「エシカル消費に取り組む理由」としては、「同じようなものを購入するなら環境や社会に貢献できるものを選びたい」(54%)、「節約につながる」(47%)があげられている。 人間が消費している自然資源の量は、地球1.7 個分に相当する。2000 年から2019 年にかけて、生産プロセスに直接使用される原材料の量は66%増加した。しかし国家間で格差があり、高所得国の1 人当たりマテリアル・フットプリント(資源の採掘量)は、低所得国の10倍にもなる。持続可能な生産と消費の実現には、売り手(企業)と買い手(消費者)の両者の努力が求められるが、そのうえで政策の後押しがあるとより望ましい。2019 年から2022 年にかけて、世界62か国とEUは持続可能な生産と消費に向けた485 の政策を導入した。
13. 気候変動に具体的な対策を
気候変動は世界の最も深刻なリスク 対策の加速が求められる
環境対策がコロナ復興政策の柱に
コロナ禍からの復興においては、環境対策を柱とする「グリーンリカバリー」が合言葉となった。経済復興予算の内訳を見ると、環境に対して良い影響を与える対策に半分以上の予算が割り当てられていることが分かる。その一方で、化石燃料への補助金など、環境に対して悪い影響を与える対策にも依然として予算は割り当てられている。
若者を中心に広がる「気候不安」
気候危機に対して悲観や心配、無力感や怒りなどの感情を慢性的に抱く症状は「気候不安」と呼ばれている。日本でも、Z世代のうち8割が気候変動に対して不安を抱えているが、他国と比べるとその割合は低い。
世界経済フォーラム「グローバルリスク報告書2024 年版」によると、今後10 年間で最も深刻なリスクは「異常気象」、次いで「地球システムの危機的変化(気候の転換点)」とされる。各国・官民で気候変動対策が広がっているものの、世界の平均気温の上昇を1.5 度に抑える「1.5 度目標」の達成は厳しいとみられている。国連気候変動枠組条約第28 回締約国会議(COP28)では、「化石燃料からの脱却」が盛り込まれた。若者を中心に気候変動に対する危機感が高まる中で、気候変動の緩和策・適応策のさらなる進展が求められる。
14. 海の豊かさを守ろう
汚染・乱獲・富栄養化などが重なり 海洋は非常事態
この30年間で海洋酸性化が進行
「海洋酸性化」とは、大気中の二酸化炭素を海洋が吸収することで、もともと弱アルカリ性の海水が酸性に近づく(pHが下がる)ことを指す。海洋酸性化の進行は深刻な問題となっており、サンゴなどの海洋生物の生息環境の悪化にもつながっている。
出所:気象庁
スーパーのレジ袋の辞退率は8割
日本では2020年夏にプラスチック製のレジ袋が有料化された。その結果、2021年にはスーパーでのレジ袋辞退率が急上昇し、現在まで高水準を維持している。また、地方圏では都市圏に比べてレジ袋辞退率がやや高くなっている。 海洋では富栄養化、酸性化、プラスチック汚染、魚の乱獲などさまざまな問題が生じている。こうした問題により海の豊かさが失われると、人類の生活基盤にも悪影響が生じる。例えば、沿岸の富栄養化で呼吸困難となった甲殻類が岸に押し寄せた結果、ロブスター漁で生計を立てていた漁村が経済的な打撃を受けた事例がある。2023年に公海の海洋生物多様性の保全と持続可能な利用のための協定が国連で採択された。公海は海洋の3 分の2を占めており、この条約が各国に批准されれば海洋環境の悪化防止に大きく貢献するだろう。
15. 陸の豊かさも守ろう
「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択 官民でネイチャーポジティブ実現を目指す
人間活動によって、地球上のほとんどの場所で自然が劣化
人為的な要因によって、陸域、淡水域、海洋の自然生態系が減少している。土地/海洋利用変化と直接採取が世界の陸域、淡水域、海洋への影響の半分以上を占めている。その結果、85%以上の湿地が失われた。さらに、動植物の25%に相当する約100万種が絶滅の危機に瀕している。
2割のプライム企業はバリューチェーンが生物多様性に与える影響を評価
生物多様性はビジネス界でも注目されている。バリューチェーンが生物多様性に与える影響を評価していると回答した日本企業は、2年以内に評価する予定の企業を含めると、プライム市場上場企業の半数以上にも及ぶ。なお、グローバルでは22%の企業が評価していると回答した。 2022 年から2023 年にかけて、官民で自然資本(生物多様性)を保全するための動きが加速した。まず、2022 年末に「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030 年に向けて30by30(陸域・海域の30%を保護地域に)を含む23 個のターゲットが設定された。さらに、2023 年には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)がガイドラインを公表した。2024 年1月時点で320 企業が開示を表明しており、企業の自然関連の開示が今後広がるだろう。
16. 平和と公正をすべての人に
世界で紛争・暴力が激化 平和の実現が遠ざかる
第二次世界大戦以降、最も多く の紛争が発生
国家間の紛争の数が2015年以降高止まりしている。2021年には、初めて世界の軍事支出が2兆ドルを超えた。2030年には世界の極度の貧困層の3分の2が、紛 争・暴力にさらされながら生活することになる可能性がある。
難民数は2010年代から増加傾向
世界では1億840万人が故郷を追われている(2022年末時点)。難民の新規発生は増加傾向にあり、2022年にはロシアによるウクライナ侵攻によって過 去最大を記録した。
出所:Our World in Data
世界の安全保障が脅かされている現在、目標16 の達成は難しい状況にある。ロシアによるウクライナ侵攻に加え、ガザ衝突、ミャンマー内戦の激化など、深刻な武力衝突がいくつも発生している。2022 年の紛争による民間人の死亡数は前年から53%増加した。紛争以外でも殺人事件の増加が問題視されており、2021 年には意図的な殺人が46 万件と過去20年間で最も多かった。日本では「闇バイト」による強盗・特殊詐欺事件などが発生した。その結果、国民の主観的な治安である「体感治安」が悪化している。
17. パートナーシップで目標を達成しよう
SDGsアクションを実装するための 資金が足りていない
4分の3の国がSDGs戦略を策定
SDGsを重要な政策プロセスに統合する動きが進んでいる。2021年までに調査対象60か国中、75%がSDGsの戦略と行動計画を策定した。しかし、G20とその他の国では取り組む割合にギャップがある。
コロナ禍でSDGs達成に必要な資金ギャップが 拡大
SDGs達成に必要な追加資金は巨額ではあるが、それでも金融機関が保有する資産の1%程度にすぎず、非現実的な数字ではない。この資金ギャップを埋めるため、SDGs債をはじめとする新しい資金調達メカニズムの開発・活用が期待されている。
SDGs の達成に向けて、さまざまな主体の協力が欠かせない。国連によるSDGs のためのパートナーシップ・プラットフォームには7700 以上のパートナーシップが登録されていることから、マルチステークホルダーでSDGsにコミットメントをしていることがわかる。しかし、SDGs 達成のための資金が不足していることが課題だ。パンデミックを受けて、世界の最貧国の半数以上が債務危機リスクに直面している(2022 年11月時点)。2022 年のODAは過去最高水準であったが、国民総所得比0.37%と、目標(0.7%)には届いていない。
SDGs白書2023-2024 持続可能なビジネスへの変革を目指して
編者:SDGs白書 編集委員会 22人の専門家の寄稿と指標データによって解説する変革への道
『 SDGs白書 』は専門家の寄稿と指標データによってSDGs達成に向けた日本の現在地を概観する年鑑です。SDGsの進捗では、計測可能なターゲットのうち順調に推移しているのは15%程度しかないことが国連の報告書によって明らかになっています。2030年の達成期限に向けて、私たちにはどんな変革が求められるのか、ビジネス、市民、ユース、教育、政策面など多様なセクターの視点で解説しています。また、今年度版では、特に水の循環と保全、仙台防災枠組、プラスチック規制の国際条約、難民問題、ESD、気候変動対策と生物多様性、デジタル田園都市国家構想における地域幸福度(Well-Being指標)などの話題にも注目しました。さらに世界的視点から、新時代の人間の安全保障についての特別寄稿を掲載しています。不安定の世界の中でビジネスを持続させるためのヒントを、SDGsを軸に考えるための一冊です。