宇宙からの災害状況把握

~令和6年能登半島地震におけるJAXAの対応について~

「だいち2号」の画像から作成したRGBカラー合成画像

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2024年1月1日 緊急観測日誌

16:10

石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生。 その後、日本海沿岸の広い範囲に大津波警報・津波警報・津波注意報が発表された。

16:44

当日の災害対応担当の携帯電話に、国内防災機関から「だいち2号」(ALOS-2)による緊急観測を要請する連絡が入り、当日夜の観測に向けた準備を開始した。

17:00

当日、「だいち2号」の観測は右図で示す領域で実施可能であることを要請元に共有。 「だいち2号」の1回の観測では、右図の領域のうち、いずれか1つの番号の範囲(東西方向約50km)のみが観測できるため、発災直後にどこを観測するかの判断が必要であった。

18:00

要請元の希望を踏まえ、震源域をカバーする「U2-06左」の領域を観測することとし、観測実施に向けた最終調整を開始した。

19:45

「だいち2号」による緊急観測の準備が完了した。


当時の防災機関に対して、JAXAが提示しただいち2号による観測範囲を調整するための資料。地図上にだいち2号で観測できる範囲を緑の枠で示しており、観測角度とフレーム番号、発災前画像が観測された日付が記載されている。

当時の防災機関との観測範囲調整資料

23:10

「だいち2号」による能登半島の緊急観測が実施。 観測データは速やかに地上に送信された。

2024年1月2日 01:30

準備ができた観測データから順次配信を開始。


「だいち2号」は電波を用いて観測するレーダ衛星です。 電波を用いて観測することで、夜中の真っ暗な中でも、上空に雲があっても、宇宙から地上の様子を観測できます。

右の画像は、「だいち2号」による2024年1月1日夜に観測された画像 (右側)と、地震発生前の2022年9月26日夜に観測された画像(左側)を並べたものです。スワイプで画像を見比べることができます。

一方で、レーダ衛星の観測画像は地上の状態を白黒で示すため、災害前後の「だいち2号」の画像を並べただけでは、直感的に理解するのは難しいことがわかります。

03:30

発災前後の画像から変化箇所を抽出した「災害速報図」を提供。

05:20

観測データから抽出した推定被害情報を防災機関に提供。


地震発生前後の2つの衛星画像にそれぞれ色を付け、それらを重ね合わせることにより変化があった箇所を抽出したのが右の画像です。RGBカラー合成画像と言います。

JAXAでは、「だいち2号」の観測画像から自動作成したRGBカラー合成画像を「災害速報図」として、「防災インタフェースシステム」を通じてユーザに提供しています。

RGBカラー合成画像の仕組み

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RGBカラー合成画像において、地震発生前後で変化があったと推定される箇所が赤色や青色で示されています。

沿岸部では、RGBカラー合成画像に青色の箇所がみられます。 地震に伴う隆起が生じた地域の沿岸部には、広い範囲で陸域化した箇所がみられ、海岸線が大きく変化したことが推定されます。

このマップの左側の画像はRGBカラー合成画像、右側の画像は国土地理院が1月2日に撮影した空中写真です。

赤枠で示した箇所は画像から土砂災害の発生が推定される箇所であることがわかります。

JAXAの観測データは、防災関係機関に提供されています。観測データからは土砂災害のおそれがある箇所が抽出され、ヘリコプターによる調査などに活用されました。

その後も、異なる観測範囲や観測角度、モードを用いながら「だいち2号」による緊急観測を行っています。下記は、観測幅50km、分解能3mの高分解能モード(Stripmap)による観測履歴を示しています。

Powered by Esri

「だいち2号」 観測履歴 (Stripmap)

また、観測幅350km、分解能100mの広域観測モード(ScanSAR)による観測履歴は下記のとおりです。

「だいち2号」 観測履歴 (ScanSAR)


「だいち2号」による地殻・地盤変動の解析結果

発災前後の「だいち2号」の観測データを解析することにより、地殻・地盤の変動(隆起や沈降など)を捉えることもできます。

下記の解析結果では、赤色で「隆起」、青色で「沈降」が表されており、より色が濃い箇所で、大きな変動が起こっていることが分かります。特に、能登半島北西部では、最大4m程度の隆起が検出されました。

※上下方向の変動をほぼ表していますが、観測方向の特性により完全な上下方向とはやや異なります(準上下方向)。

上下方向の変動(隆起または沈降)

また、下記の解析結果では、赤色で「東向き」、青色で「西向き」の変動が表されおり、全体的に西向きの変動が見られることが分かります。

※東西方向の変動をほぼ表していますが、観測方向の特性により完全な東西方向とはやや異なります(準東西方向)。

東西方向の変動


「だいち2号」による建物被害の抽出結果

下記は、地震前後の「だいち2号」の衛星データを自動解析することで抽出された、建物被害の推定箇所を示しています。黄→オレンジ→紫→黒と色が変化するにつれて、推定される被害建物数が増加します。JAXAでは、このような建物被害情報を、観測から2時間半後に提供するべく技術開発を進めています。

被害建物状況 (約500mグリッド)


「だいち4号」の打上げに向けて

先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)

2024年6月30日にH3ロケット3号機にて打上げが予定されている、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)は、「だいち2号」の性能を新技術の導入によってさらに向上させ、世界最高レベルの解像度と観測カバレッジを実現する地球観測衛星です。

「だいち4号」の観測幅は、「だいち2号」の観測幅50km(分解能3m)から200km(分解能3m)に増大し、より広範囲の観測が可能になります。

能登半島地震では、発災直後の1月1日の緊急観測で能登半島全域を観測することができず、1月8日までに実施した4回の観測で全域の観測を実施することができました。一方、「だいち4号」の場合は1回の観測で能登半島全域に加え、富山県や新潟県も同時に観測可能でした。

「だいち2号」と「だいち4号」で観測できる範囲の比較

広範囲の観測ができることは、地震災害だけではなく様々な災害時にも「だいち4号」ではより少ない観測回数でカバーできると期待されています。

さらに、光データ中継衛星との通信により、「だいち4号」と通信できる時間が大幅に増えることにより、災害時の緊急観測要請にタイムリーに応えたり、これまでよりも多くのデータを地上へ伝送できるようになります。

地球全体を定期的に観測することにより、災害状況把握だけでなく、国土全体の地殻変動、地球環境変化、海洋など、多様な分野での貢献を目指します。


「しきさい」による火災検出

令和6年能登半島地震においては、「しきさい」を用いた火災検出が行われました。

「しきさい」による短波長赤外線画像

右の画像は、2024年1月1日22:16頃に「しきさい」が観測した短波長赤外線画像で、夜間観測では高温部の存在がわかります。面積にもよりますが、おおよそ、赤色は100℃以上、黄色は300℃以上、白色は400℃以上の箇所があることを示しています。

1月1日の夜間は、能登半島全体が良く晴れ、輪島市河井町や能登町白丸の大きな火災が、このような画像から自動的に検出されました。あまり報道されていない能登町の火災も衛星画像では検出されており、被災域を均等に観測できることが衛星観測の強みです。

この検出結果は国土交通省国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人建築研究所が被災地で行った延焼状況などの調査に利用されました。

今後、衛星による観測結果と現地調査結果を比べることで、衛星による被災地の火災発生状況の全体像をより精緻に把握できるようになることが期待されます。


JAXAの防災活動の取り組み

防災関連機関とJAXAの連携体制を示した図。内閣府や国土交通省といった政府指定行政・公共機関、および地方公共機関等と協定を締結している。

防災関連機関とJAXAの連携体制

JAXAは、防災関係府省庁や地方自治体などの防災関連機関(防災ユーザ)とともに、「だいち2号」などの衛星画像の防災活動への利用実証を行っています。これらの活動成果は、防災ユーザに利用されるとともに、「だいち2号」以降の地球観測衛星や防災システム作りへと反映しています。

具体的には、災害時に「防災インタフェースシステム」を用いて防災ユーザからの緊急観測要求を受け付け、「だいち2号」による緊急観測を実施し、観測画像に加え、被災範囲等を可視化した画像を提供し、防災利用を進めています。また、土砂災害や洪水災害での衛星データの実利用化を目指したワーキンググループを立ち上げ、マニュアル整備などを進めています。

さらに、JAXAは、人工衛星を用いた防災に関する国際協力枠組み「センチネルアジア」や「国際災害チャータ」にも参加しています。他国で災害が発生した際には、これらの枠組みを通じて「だいち2号」の衛星データを提供するとともに、今回の令和6年能登半島地震においては、世界中から衛星データや解析プロダクトの提供を受けています。


国際協力枠組み

センチネルアジア(Sentinel Asia) 

センチネルアジアは、アジア太平洋地域における防災活動を、宇宙技術を活用して支援することを目的とする国際的な協力枠組みです。地球観測衛星画像などの災害関連情報をインターネット上で共有し、自然災害による被害を軽減・予防することを目指しています。センチネルアジアは、2005年にアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)において提唱され、翌年にプロジェクトチームが発足しました。2024年5月時点で、合計115機関(29ヶ国・地域から98の機関と17の国際機関)が参加しており、その活動は着実に広がっています。

今回の令和6年能登半島地震においても、センチネルアジアが発動され、台湾国家宇宙センター(TASA)やインド宇宙研究機関(ISRO)、UAEのムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)より衛星データが提供されました。さらに、解析機関よりそれらの衛星データの解析結果が提供されました。

シンガポール南洋理工大学の解析チームによる解析プロダクト

右の画像は、シンガポールの南洋理工大学の解析チームから提供された解析プロダクトです。解析には、地震発生前後の「だいち2号」のデータが用いられています。

解析プロダクトには、解析で抽出された被害推定箇所に色付けがされており、黄色から赤色に変化するにつれて、推定される被害が大きくなっていることが示されています。

台湾国家宇宙センター(TASA)による解析プロダクト

左の画像は、TASAより提供された解析プロダクトです。TASAが運用する光学衛星「FORMOSAT-5」が観測した画像が用いられており、被害が推定される箇所が黄色のドットで示されています。

光学衛星は、SAR衛星とは異なり、人間の目に見える光(可視光)で観測を行います。したがって、光学衛星の画像は、カメラで撮影した写真のように見えます。


国際災害チャータ(International Disaster Charter)

国際災害チャータは、大規模な災害が発生した際に、宇宙機関の衛星データをユーザに提供する国際協力枠組みです。1999年に欧州宇宙機関(ESA)とフランス国立宇宙センター(CNES)が提唱したもので、JAXAは2005年に正式に加入しました。2024年4月時点で17の宇宙機関が加盟し、災害時の衛星観測やデータの提供を行っているほか、民間企業や国連関係機関などもパートナーとして活動に参加をしています。

今回の令和6年能登半島地震においても、国際災害チャータが発動され、光学衛星・SAR衛星を含む18種類の人工衛星で観測された合計353の衛星データが提供されました。提供された衛星データをもとに、日本国内の解析チームによって13の解析プロダクトが作成されました。

「GeoEye-1」を用いた広島工科大学の解析プロダクト

右の画像は、広島工科大学が作成した、米国地質調査所(USGS)提供の光学衛星「GeoEye-1」の画像を用いた解析プロダクトです。

赤く囲まれた箇所において、土砂崩れの発生が確認できます。

「GeoEye-1」を用いた千葉大学の解析プロダクト

左の画像は、千葉大学が作成した、同じくUSGS提供の光学衛星「GeoEye-1」によって観測された、輪島市の大規模火災に関する解析プロダクトです。

黄色く囲まれた箇所が、焼失されたエリアであることが分かります。


おわりに

能登半島地震では、JAXAから提供した人工衛星の観測データやそれより得られた広域の被害状況は、防災関連機関の初動対応で活用され、被災状況の全容が掴めない中で提供した情報が役立ったとの評価をいただきました。

一方で、今回実施した緊急観測を通じてわかった課題、ユーザからのフィードバックから、提供データや情報をよりよいものとしていくことが必要と考えています。

JAXAは今後も国内外の防災関連機関・宇宙機関と連携し、打上げ予定の「だいち4号」を含めた観測体制の強化などにより、国民の皆様の生命と財産を守るための活動を支援してまいります。

被災地の皆様の安全と、一日も早い復興をお祈り申し上げます。

Ⓒ Japan Aerospace Exploration Agency

本サイトで使用している 「だいち2号」(ALOS-2)、「しきさい」(GCOM-C)画像は、宇宙航空研究開発機構が著作権を有しています。ただし、画像提供、Ⓒ、出典などの但し書きがある場合はその限りにありません。

本サイトの地図コンテンツの一部には、 国土地理院 地理院タイル を使用しています。

防災関連機関とJAXAの連携体制

シンガポール南洋理工大学の解析チームによる解析プロダクト

台湾国家宇宙センター(TASA)による解析プロダクト

「GeoEye-1」を用いた広島工科大学の解析プロダクト

「GeoEye-1」を用いた千葉大学の解析プロダクト

当時の防災機関との観測範囲調整資料

RGBカラー合成画像の仕組み